社員もバイトもない、同じ仕事に挑む同志という気持ち

20代後半のとき、編集の仕事につきたくてとある編集プロダクションに応募しました。それ以前は映像関係の会社で働いており、書籍の編集はまったくの未経験だったために、なかなか正社員で採用してくれるところは見つかりません。このままでは何社受けても同じだと思い、とにかく経験を積むのが先だと考えて、アルバイトを募集していた編集プロダクションに入りました。

PC関連書籍や中高生向けの参考書などの編集をしている会社で、従業員は全員で10名ほどの小さなプロダクションでした。取引先の出版社(版元)から仕事を請け負って、その編集業務全般(原稿の執筆依頼から整理、校正、印刷所への入稿・下版まで)を行うのです。

ヒエラルキーが確立しており、一番偉いのは版元の担当者、次がうちの会社の社長、次が上司・先輩社員、最下位がアルバイト(私1人)です。社長がいくつもの版元に営業をかけて仕事をもらってきて、それを社員とアルバイトでこなしていくのです。アルバイトは何でも屋的に先輩社員から言われたことは文句を言わずこなしていかなければなりません。編集作業だけではなく、雑用全般も私の仕事でした。編集プロダクションというのは出版社から受ける仕事を数こなしてナンボなので、常にみんなが3~4件の案件を同時進行で抱えており、締め切り間近の緊迫具合はいつも凄まじいものでした。

ある時期、大きな仕事を社長が取ってきました。聞くと、最初は出版社がほかの編集プロダクションに依頼していた仕事なのですが、クオリティがあまりにも低いためにすべて白紙に戻して、うちに回ってきたとのこと。もちろんその本の発売日はすでに決定しているため、締め切りまでの時間はほとんどありませんでした。社長は「ここできっちり仕事をこなせばその出版社に恩を売れる。だからなんとしても締め切りまでにクオリティの高いものを作り上げろ!」と息まいていました。 会社の人間の半分以上である7名体制での仕事に取り掛かることになりました。担当の中でアルバイトは私だけです。経験の浅い私でしたが、緊急要員として駆り出されることになったのです。

それからというもの、連日終電まで原稿整理~校正に追われました。帰宅すると疲れて寝るだけで、それでも翌日8時半には会社へ行って仕事を始めていました。社員の中には泊まり込んでいる人もいました。 総力戦なので仕方ないのですが、あまりに体力的にも精神的にもきつくて「私はバイトなのに、なんで社員と同じようにやらなきゃいけないんだろう...不公平すぎる」と内心でずっとモヤモヤ思っていました。

そして何とか締め切りに間に合いそうという最後の段階、印刷に入る直前の段階で、決定的なミスが見つかりました。そのページを担当していたのは、私です。ミスを修正するためには、一工程戻ってやり直しをしなければなりません。でも、それをやっていては発売日に間に合わないかもしれません。間に合わない場合には、出版社に損害が出ることになります。そうなれば、もちろん編集をまかされたうちの会社がその損害を賠償するように言われても仕方ありません。頭の中が真っ白になりました。手が震えました。よりによってとんでもないミスを犯してしまったと後悔してもしきれませんでした。 以前、大きなミスをした社員がクビになったという話を聞いたことがあったので、自分も即クビだろうなと腹をくくり、とにかくまずは激怒している社長に謝りに行きました。社長はまさにカンカンで「お前の失敗のせいでうちの会社は信用がなくなった!」と取り付く島もなく私はただひたすら謝罪をするのみでした。

お通夜のような雰囲気の編集室へ戻り、上司や先輩にも謝罪し、私は荷物の片付けを始めました。すると先輩社員の1人が「これ、問題だろ。バイトに責任押し付けて終わりって」と言って、社長室へ行って抗議をしてくれました。あの状況でバイトを社員と同じようにこき使い、ミスが出たらそれをバイト一人に押し付けて責任取らせましたって終わらせるのはおかしい。社員もバイトも同じように作業していて誰もミスを見つけることができなかったんだから、これは全員の責任じゃないんですか、と。それを聞いて他の上司や社員の人も社長と話し合ってくれました。頭に血が上っていた社長も最終的には理解してくれたそうです。社員の方々のおかげで、私はクビにならずに会社に残ることができました。そして、それ以降は社長も条件が厳しすぎる仕事は受けないようになりました。

働き始めてからずっと一番下っぱ扱いでお給料も少なく、それなのに社員並みにハードな仕事をさせられていたことに対して少なからず不満を持っていたのですが、この件で社員の方々を見る目も変わりました。体育会系的な上下関係で高圧的だと思っていた上司や先輩が、実は態度が武骨なだけで、私のことを「ただのバイト」ではなくて一人の戦力としてちゃんと見てくれていたんだと思うと嬉しくなりました。それからは「どうせ私はバイトだから」と卑屈になることなく、逆に先輩たちの仕事を進んで手伝うようにしました。

その数年後に私はまた転職をしたのですが、バイトでも社員でも一緒に仕事をするなら同じ仲間という先輩たちのその時の気持ちが、その後の私の仕事における人との関わり合いに大きく影響をしていると思います。